大判例

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東京地方裁判所 平成6年(特わ)2698号 判決

本店所在地

東京都豊島区東池袋二丁目一一番一一号

関根建設株式会社

(右代表者代表取締役 関根久男)

本籍

東京都豊島区東池袋二丁目一二番地

住所

同都同区東池袋二丁目一二番六号

会社役員

関根久男

昭和一四年八月一三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官関隆男、同大串雅里、弁護人田代則春各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人関根建設株式会社を罰金一億一〇〇〇万円に、

被告人関根久男を懲役一年四月に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人関根建設株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都豊島区東池袋二丁目一一番一一号に本店を置き、土木建築請負業等を目的とする資本金二〇〇〇万円(平成二年一月三一日以前は一〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人関根久男(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空労務費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億〇八二七万〇一二三円(別紙1の修正損益計算書及び修正完成工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成元年一一月三〇日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億一一三四万八二〇二円でこれに対する法人税額が四四二五万九三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一八四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億二六九六万六五〇〇円と右申告税額との差額八二七〇万七二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八億九四七二万七〇一二円(別紙2の修正損益計算書及び修正完成工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成二年一一月三〇日、前記豊島税務署において、同税務署に対し、その所得金額が一億七六三二万六四五〇円で、これに対する法人税額が六七五一万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億五四八七万五四〇〇円と右申告税額との差額二億八七三六万〇四〇〇円(別紙5のほ脱税計算書参照)を免れ

第三  平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億九〇九一万二三五九円(別紙3の修正損益計算書及び修正完成工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成三年一二月二日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億八〇二六万六九一一円で、これに対する法人税額が六三七三万七八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し(なお、課税土地譲渡利益金額は、実際及び申告とも五四万六〇〇〇円である)、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億八〇二三万〇〇〇〇円と右申告税額との差額一億一六四九万二二〇〇円(別紙6のほ脱税計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通

一  佐藤富男の検察官に対する供述調書三通

一  大蔵事務官作成の完成工事高調査書、労務費(完成工事原価)調査書、外注費(完成工事原価)調査書、労務管理費(完成工事原価)調査書、従業員給料手当(完成工事原価)調査書、通信交通費(完成工事原価)調査書、期首たな卸高(完成工事原価)調査書、期末たな卸高(完成工事原価)調査書、役員報酬調査書、役員賞与調査書、給与手当調査書、福利厚生費調査書、交際費調査書、雑費調査書、雑収入調査書、役員賞与損金不算入額調査書、交際費損金不算入額調査書、事業税認定損調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(三通)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の減価償却費(完成工事原価)調査書及び元請完成工事原価調査書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一八四号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の元請工事完成高調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項(第一及び第二の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項(第一及び第二の罰金刑の寡額につき、前同)

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

(量刑の理由)

本件は、土木建築請負業を目的とする被告会社の社長であった被告人が、架空労務費を計上するなどの方法により、三事業年度にわたり、被告会社の所得を合計一二億二五九六万円余少なく見せかけ、合計約四億八六五六万円の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は通算約七三・五パーセントである。脱税額はかなりの高額であって、ほ脱率も低いとはいえない上、この種事案については一般予防の必要性が高いことをも考慮すると、被告人及び被告会社の刑事責任は相当重いといわざるを得ない。

被告人は、被告会社の工事受注先であるゼネコンの関係者に対する接待費・バック金、被告会社の社員への簿外給与等に充てるための簿外資金を作ることのほか、自己が個人的に株取引をしたり、友人等に貸し付けたり、競馬・ゴルフ・飲食等の遊興費に充てるための資金を捻出することをも目的として、本件脱税に及んだのであり、動機に特に酌むべきところはない。被告人は、月払いの労務費については、経理責任者の佐藤富雄に対し、毎月、作るべき裏金の額を指示して、佐藤に架空の手配書・賃金台帳等を作成させ、架空計上分を現金で受領しており、また、日払いの労務費についても、一時期、佐藤に水増しの支払証明書等を作成させ、水増し分を被告人等の名義の裏口座に入金させていたほか、各期の申告期限前に、佐藤からその期の試算表に基づいて申告所得額や申告税額の報告・説明を受け、佐藤にもっと税額を削るよう指示し、所得額や税額を圧縮する種々の経理操作をさせ、佐藤からその報告・説明を受け、さらに税額を削るよう指示するということを繰り返した上で、本件各虚偽過少申告に及んだものである。なお、被告人は佐藤に経理操作の具体的方法まで逐一指示したわけではないが、自己が納得する税額になるまで所得額等の圧縮を指示し、佐藤から経理操作の概要の報告を受けこれを了承していたのである。被告人の納税意識は希簿であり、犯行の態様も計画的で悪質というべきである。さらに、被告人は、このような不正手段によって得た簿外資金の多くを現に前記のような個人的な用途にも費消しているのである。このような事情をも併せ考えると、被告人の犯情は芳しくないというほかない。

他方、被告人は国税当局の査察を受けて以来、事実を認め、調査及び捜査に協力し、かつ税理士や弁護士に相談して経理体制の改善に努めており、当公判廷においても真摯な反省の態度を示していること、被告会社は、本件三事業年度分の法人税及び重加算税を完納し、法人税の延滞税及び地方税については、一部を納付し、残余の納付を継続中であること、被告人には前科前歴がないこと、被告人は、これまでまじめに働き、社会的にも多くの貢献をしてきたものであり、妻と三人の子供にとっても、被告会社にとっても、極めて重要な存在であることなど、被告人及び被告会社につき有利に斟酌すべき事情も認められる。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮した上、被告人については、反省状況等の犯行後の情状には酌むべき点が多いとはいえ、前記のとおりの脱税額、ほ脱率、犯行の動機、態様等を軽視することはできず、刑の執行を猶予するのは相当でないと判断したが(弁護人が弁論において有利に援用する裁判例の中には、かなり特殊な事情が認定されているものが多いので、これらのみによって、同種事犯についての量刑の一般的傾向を論ずるのは相当ではない。本件よりも脱税が低い事案につき、懲役刑の実刑が言い渡された事例も決して少なくないのである。)、被告人の刑期及び被告会社の罰金額については、前記の反省状況等のほか、被告人らが審理促進に協力的であったということや、ほ脱率はこれまでの実刑事例群と比較対照するとやや低い部類に属することなど最大限に斟酌して主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金一億五〇〇〇万円、被告人懲役二年六月)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

別紙1 修正完成工事原価報告書

〈省略〉

別紙2 修正損益計算書

〈省略〉

別紙2 修正完成工事原価報告書

〈省略〉

別紙3 修正損益計算書

〈省略〉

別紙3 修正完成工事原価報告書

〈省略〉

別紙4 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙5 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙6 ほ脱税額計算書

〈省略〉

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